初めて海外に行ったのは大学4年の夏、ヨーロッパでした。今から45年前のことです。見るもの聞くもの全てが初めてのことばかりでカルチャーショックを覚えたことが昨日のようです。
その後、仕事での出張を含め訪れた国は50ヵ国になります。一応、5大陸を制覇することも出来ました。
私は61歳で会社勤めをリタイアし、その後夫婦で旅行を楽しんでいます。私達の旅行スタイルは、右手にビール、左手にうちわを持ってのんびりと旅することです。と言えば優雅なようですが、ポケットにガイドブックを忍ばせ、あそこもここもとせわしく歩き回っています。貧乏暇なしそのものですね。
さて、これを読んでいる皆さんも色々な所へ旅していると思いますが、もう一度行きたい所となると、どこでしょう?
チカちゃん、妻ですが、チカコといいまして、みんなからは上の2文字をとってチカちゃんと呼ばれています。上と下をとってチコちゃんはどうかなと思うのですが、「ふざけんじゃねーよ」と怒られてしまいました。
そのチカちゃんですが、彼女のお気に入りはスペインのパルセロナです。サグラダファミリアを始めとするアントニ・ガウディの建造物にはまり込んでいます。バルセロナは地中海に面した街で、ガウディ以外にも見どころが多く、ぶらぶらするには最高です。
私のお薦めはフランスのパリですが、もう一度行きたい所となると、スリランカです。何故? 分かりません、何となくです。スリランカには42年前、25歳の時に仕事で行ったきりですから、仕事も含めてほとんど記憶にありません。それでいて、なんとなくもう一度行きたいと思うのです。
2016年にベトナムのハノイに行った時のことです。世界自然遺産であるハロン湾のクルーズツアーに参加した際、30歳前後のキャリアウーマン風の素敵な女性と話しをする機会がありました。彼女もいろんな所へ旅をしているとのことでしたが、その彼女から「もう一度行きたい国はどこですか?」と聞かれ、私はすかさず「スリランカかな」と答えていました。すると彼女が「えっ、私も。この前行って来た所。最高!」と言いながら、驚いたようなしぐさをしていました。私も思わず「そうでしょ」と言い返していたのです。世界の片隅でたまたま出会った二人が同じ思いを抱いていたなんて不思議ですよね。偶然でしょうか。いや不思議でも偶然でもないと思います。我々を惹き付ける何かがスリランカにはあるに違いないのです。
チカちゃんは、蒸し暑くて、排ガスだらけで、喧噪としたアジアよりも、夏でもさわやかな欧米に魅力を感じているようです。10時間もかけて訳の分からないスリランカなどに行きたい筈がありません。そう確信していました。ところが、ハロン湾で知り合った女性の一言がチカちゃんの興味を少し揺り動かしたのかもしれません。ダメもとで「次はスリランカ当たりどうかな」となにげなくつぶやいた私に、「行こうか」と反応したのです。びっくりしましたが、これで決まりです。
改めて、スリランカが私を惹き付けてやまない魅力が何だったのか思いを巡らせてみました。観光をした記憶はありませんので、そういったたぐいのものでないことは確かです。それでは何? 強いて言えば、スリランカの人々の人なつっこい笑顔かもしれません。きっとそうです。
下の写真はその時に撮ったものです。一緒に写っている少年が私を慕ってしばしばホテルにやって来ました。彼は現地語(シンハラ語)しか話しませんので会話をすることはありませんでした。ただ、私の顔を見るためだけにやって来るのです。ホテルのスタッフによると、この少年は10キロ程離れた村に住んでいて、靴磨きをして家計の手助けをしているそうです。しかし、いつも穏やかで貧しさを感じさせるようなことはありませんでした。遠くからてくてくと歩いてやってくるのは、私に日本を重ねて将来に夢を託していたからではないでしょうか。今頃彼は何をしているのでしょう。勉学に励み、夢見た日本にやって来たのでしょうか。それとも、やさしいお父さんになっているのでしょうか。
その下の写真は、私の出張先の事務所の女性スタッフです。この写真では少し照れくさそうですが、いつもニコニコとしていて、オフィスは笑顔と活気で満ち溢れていました。
今も彼達、彼女達が私をスリランカへと誘っているような気がしてなりません。